アラジンのある風景
弘法大師が開いた
由緒ある寺院にある
7台の石油ストーブ。
京都市東山区にある今熊野観音寺は、平安時代に弘法大師が開いたといわれる寺院。頭痛封じ・ぼけ封じのご利益がある「頭の観音様」としても有名で、古くは後白河上皇の頭痛を癒したという言い伝えがある。1000年以上の歴史をもち、四季を問わず多くの人が訪れるこの寺院には、7台の石油ストーブがある。
冷え込みが厳しい京都の冬
ヒーターが境内を暖める。
「京の底冷え」という言葉があるぐらい、京都の冬は寒さが厳しい。開放的なつくりの寺院は、澄んだ冷たい空気に満ちていて、なおさら寒く感じる。今熊野観音寺が暖房器具を用意するのは、秋が始まったばかりの10月頃。片づけるのは、桜が散る頃の4月半ば。1年のうちの約半分、7台のブルーフレームヒーターが大講堂や納経所などに置かれ、青い火で周りの人や空間を暖めている。
揺らめく炎、立ち上る空気
視覚や嗅覚で温もりを感じる。
朝が来ると、誰かがブルーフレームヒーターの油量計を覗き込む。灯油の残量を確認して、必要があれば補給する。ヒーターの燃焼持続時間は約15 時間。真冬であれば、2、3日に1 度給油することもある。油量の確認が済んだら芯に火を灯す。もうすぐ開門の時間だ。
石油ストーブにこだわりがあるわけではないし、電気ストーブを使わない理由もない。誰がいつ使い始めたのかも分からないけれど、今熊野観音寺では昔ながらのブルーフレームヒーターを、ずっと愛用し続けている。「電気ストーブにも魅力があると思いますが、石油ストーブには特有の良さがあります。炎が見えるし、香りもする。香りというのは、灯油の香りではなくて、熱の香りです。温度だけではない暖かさを感じられるところが、石油ストーブの良いところかもしれませんね」と、副住職の藤田さんは言う。アラジンのブルーフレームヒーターが日本に普及したのは60 年ほど前のこと。1200 年続く寺院の歴史を考えれ
ば、まだまだ出てきたばかりの新参者だ。それでも、境内にヒーターがある風景や、そこに火を灯す習慣は、冬の寺院の風物詩として親しまれている。
人や社会が変わっても
時代を超えて存在する場。
平安時代は貴族の参拝が中心だったが、室町時代からは庶民の来訪が増え、江戸時代にはたくさんの人が東から旅して来た。令和の今は、国内だけでなく海外からも参拝者が訪れている。100 年後はどうなっているだろう。訪れる人の姿も、世の中の雰囲気も、今とはすっかり変わっているに違いない。でも、今熊野観音寺はきっとここにあるだろう。ひょっとしたら、そこにはブルーフレームヒーターの姿もあるかもしれない。